漫画を知っているものであればその名を知らぬものは居ない
漫画の神様と呼ばれた手塚治虫先生
鉄腕アトムやジャングル大帝、ブラックジャック、火の鳥など数々の名作を遺して1989年に亡くなった。
一見すると明るく、自然との調和や命の大切さなど道徳的であり子どもたちの為の漫画家と思われがちではあるが、手塚治虫先生の深いところはそんな表面的な部分には現れない。
最近では”黒”の手塚治虫シリーズとして再販された作品に「奇子」という作品がある。
他にも紹介したいブラックでオドロオドロしい作品はあるのだが、今回はこの「奇子」について書いてみようと思う。
なお、ネタバレも含まれるが細かい部分はなるべく省いて書いていく。
奇子という作品
この作品には1つの大きな家族が出てくる。天外家と呼ばれる東北の戦前の名家だ。
主人公は奇子(あやこ)という少女なのだが、最初はこの天外家の次男が家に戦後に家に帰ってきたところから話は始まる。
出征前には居なかった新しい家族が増えた。それがこの作品の主人公である奇子だ。
次男である仁朗は初めて見た奇子の首筋にあるホクロと兄で長男の嫁である「すえ」という女性に同じホクロがあることにビックリする。
皆まで言うなというか書かないけれど、これが奇子の出生の秘密なのだ。
その後、天外家はこの秘密を守る為に右往左往したり、実は天外家には左翼活動をしている女性が出てきたりと、その辺のサスペンス映画も真っ青のシナリオが待っている。
この奇子のストーリーには戦後に実際に起こった下山事件と呼ばれる初代国鉄総裁の謎の事故死がモデルとなった事件が発生し、家族はそれぞれが自らの欲望に走っていく醜悪な姿と、奇子を巡る異常な愛情を綴っている。
奇子はその出生の因果から、20年という長い年月を監禁されて育つことになる。
当然20年もの間監禁されていた奇子は普通の人間のような生活を送ることが出来ない。
名前の通りに奇妙な女の子になってしまうのだが…
それでも奇子は絶世の美女に育ち、家族や周囲がそれぞれ奇子を巡って最期まで争いあった結果、最後の最後に生き残るのは奇子だけなのだ。
因みに一部ネタバレをすると
青年だった最初に登場する次男の仁朗は最終的にマフィアになったりする。
それほど、破天荒かつ奇妙で複雑怪奇な作品なのだ。
奇子は手塚治虫の影であり、思想でもある(っと思う)
手塚治虫シリーズの漫画は黒のシリーズを含めてある程度現在でも読める作品は読んでみたが、
手塚治虫が天才的だったのはやはりストーリーにあると思う。
そう感じるのはおそらく、現代の漫画誌ではおよそ連載の出来ない内容だからだ。青年誌でもアウトな可能性が非常に高い。
持ち上げるテーマがそれほど重たく心に残ってしまうし、綺麗事を綺麗に抜いた作品でいて、漫画として成立しているのが不可思議だと感じてしまうほどだ。
もちろん単純な画力や表現力といった部分においては現代の漫画家の方が圧倒的に優れていると思える部分も多い。
しかし、手塚治虫という神様が遺した奇子という作品にはそれらを超える”何か”が詰まっているように感じてしまう。
調べた所によれば手塚治虫が遺した作品数は600を超えるという。
流石にその全てに目を通すのは難しいけれど、漫画が好きであれば何かしら薄暗い手塚治虫の作品を手に取ってみて貰いたい。
他にもおすすめの作品があるのだけれど、それはまた別の機会に…
因みに手塚治虫短編集なんかもかなりおすすめだったりする。
アトムやジャングル大帝では見れない手塚治虫の影をそこに読み取れるからだ。
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